ついに最終面接

前回の副社長の面接を通過して、僕はその企業の社長と会うことになりました。今まで受けた最終面接で色々あった失敗を胸に、朝早くて頭がボーとしてはいま
したが、全力でやるしかない、そういう気持ちでいっぱいでした。面接の前に、自動販売機でお茶を買って何度も何度も口の渇きを潤わせてから、会社の受付に行きました。

小さな面接室で数分一人で待っていました。机に置いてある時計の針をずっと見て緊張をほぐそうとしました。そしてガチャッと扉が開いた瞬間、僕はビュッと
立ち上がって、社長に「おはようございます!」と大きな声で言いました。社長はにっこり笑って、「ま、座って。」と言いました。

そして座った僕を見て、「もう君の事は100%分かったから」と言いました。僕は目をまん丸にして「え?」と思いました。社長は手に持った僕の今までの選考の結果が書いてある何枚もの紙を僕の方に差し出して、「この書類を昨日の夜、何回も何回も読んでね、君の事9割近くわかっていたんだ。そして今、実際に
君を見て、もう君の事わかったから」と僕に言うのです。それから僕の緊張を見て、「自分の周りの空気をまあるくイメージしてごらん、緊張しているのが伝わって、相手を包み込んでしまうから。円のようなもので相手を包み込んでごらん」と言いました。僕は言われたように一生懸命イメージしましたが、それで成功していたかまではわかりませんでした。

社長はすぐ僕の性別を書いた「備考」に触れてきました。そこにはこう書いていました。「私は、戸籍上は女性ですが、男性として生活し、男性として働きたいと思っています。きっとこのハンデを乗り越えますので、どうぞよろしくお願いします」と。社長はこの「ハンデ」という言葉が気になったといいました。「君はまだ自分にぴったりくっついている。もっと客観視できればハンデとは言わなくなる。女で生まれて男で生きる自分って面白いなって思ってごらんよ」社長はそういって、ご自身の前世の話をしました。自分は前は魚だったかもしれない、石だったかもしれない。男だったかもしれないし、女だったかもしれない。性別は変わっていくその一要素に過ぎないのだと、その社長は言いました。

面接というより、カウンセリングのような感じでした。僕に関する書類(今まで受けた心理テストとか)を基に、社長はずばりずばり僕の長所と短所を言い当てて、そこをどうすれば伸ばせるのか、成長とは何か、僕に問い、色々と教えてくれました。

奥さんと2人で会社をゼロから起こし、今は200人もの従業員を抱える企業に成長させた、多くの経験が社長から滲み出していました。そして何百人・何千人
もの人と出会い、営業というものを通してコミュニュケーションを磨いて来られた、人を惹きつける話術に僕は感心していました。

社長は「ずいぶんと私だけ話してしまった。しかし、君の聞きたいという気持ちが感じられるからだよ」と笑って言いました。そうです・・・。僕は「なるほど、なるほど、」と聞いてばかりで、あんまり自分のことを話していないことに気が付いたのです。

「最後に言いたい事は?」と言われて、僕は絶対に言おうと決めていたことを言いました。

それは、社長が初めて会社を作って、何件も何件も門前払いをされて、怒鳴られて、それでも初めて営業で仕事をもらったその嬉しさを、自分も同じ気持ちで味
わいたいということ。25年も続いた、もう出来上がった組織で営業の仕事をもらうのではなく、仕事を自分で作る、自分で会社を作っているのだという気持ちで働きたいということ。25年前の社長と同じ気持ちで、自分も作りたい。そう伝えると社長は「大変だぞー」と笑いました。「頑張ります!」僕は最後にそう伝えました。

90分近い社長との面接が終わりました。前世の話をされたときは正直大丈夫かどうか心配でしたが、僕の性別について色々と「自分の捉え方」を教えてもらえて、これも自分の事を隠さずに選考を受けたからこんな良い言葉もらえたんだよな、自分でこの道を選んで本当に良かったんだな、と思いながら帰りの電車に乗
りました。